No.666 重苦しい事件だった

 元農水相事務次官が自分の長男を殺害した事件は、その後実刑判決が出て、更に驚いたことに保釈された。殺人罪で実刑が言い渡された被告人が保釈される例はほとんどないそうだ。
 この事件を報道でのみ知りえた感想は「もう少し何とかならなかったのか」だ。それは元事務次官が長男に対して接してきた事柄に向けられているし、その上でいわば「手に負えなくなった」時にも向けられている。
 衝撃的だったのは、長男は被告人の妻名義の家で一人暮らしをしていたが、被告人と同居に戻ったのが事件の一週間前だったということ。つまり、たった一週間で殺害に至ったということだ。
 それまでの間被告が男性には珍しいほどに息子の世話をしていたという立場の報道があった。妻も精神的に病んでいて世話をさせることが出来なかったという。長男も被告の肩書きを誇りに感じていた時代もあったようだが、中学2年生の頃からいじめが酷くなって彼は次第に引きこもるようになったらしい。残念ながら引きこもりの10%程度には慢性的な暴力が伴い、50%程度には一過性の暴力が伴う。行き場のない悲しみが暴力に向かってしまう。そして爆発した暴力は「悲しみの連鎖」を生む
 長男の暴力的行為に怯え、同居を始めて一週間でその彼を30数カ所刺して殺してしまったのだ。父の犯したこの取り返しのつかない一過性の暴力もまた、連鎖された悲しみだったのかも知れない。でも、だからこそ、そうなる前にもう少し何とかならなかったのか。
 「8050」だとか、「中高年引きこもり61万人」だとか、センセーショナルな数字が羅列される。確かに数字は深刻さは伝えるだろうが、希望を伝えることはない。「もう少し」が何なのか、数字は教えてくれない。
 この事件は、だから重苦しい。胸が詰まる。

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